身体拘束を最小にするための指針

身体拘束を最小にするための基本的な考え方

  1. 身体拘束とは「本人の行動の自由を制限すること」である。身体抑制や拘束は、当院では、患者の人権を尊重し、安全を優先させ他に代替手段がない場合を除き原則として行わない。
  2. 身体拘束と身体的拘束の違い
      • 身体拘束(厚生労働省:身体拘束ゼロ作戦推進会議より)
      • 身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為
      • ※介護保険指定基準により禁止されている行為
      • 身体的拘束(厚生労働省:平成 28 年度診療報酬改定ガイドラインより) 抑制帯、患者の身体又は衣服に触れる何らかの用具を使用して、患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限
      • ※ミトン、抑制帯、ワンタッチベルト、つなぎ服など

身体拘束廃止・防止対象となる具体的な行為

  1. 一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹は四肢をひも等で縛る。
  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  3. 自分で降りられないように、ベッドを網(サイドレール)で囲む。
  4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように手指の機能を制限するミトン型の手袋等を
  6. つける。
  7. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
  8. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを防げるようないすを使用する。
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る。
  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

身体拘束を必要としないための3つの原則

  1. 身体拘束を誘発する原因の特定と除去
  2. 必ずその人なりの理由や原因があり、ケアする側の関りや環境に問題がある事も少なくない。そのためその人なりの理由や原因を徹底的に探り、除去するケアが必要である。
  3. 5つの基本的ケアを徹底する
  4. まず、基本的なケアを十分に行い、生活のリズムを整えることが重要である。①起きる、②食べる、③排泄する、④清潔にする、⑤活動する(アクティビティ)これらの5つの基本的事項について、その人に合った十分なケアを徹底することである、例えば、「③排泄する」ことについては、「自分で排泄出来る」、「声かけ、見守りがあれば排泄できる」、「尿意、便意はあるが、部分的に介助が必要」、「ほとんど自分で排泄できない」と言った基本的な状態と、その他の状態のアセスメントを行いつつ、それをもとに個人ごとの適切なケアを検討する。こうした基本的事項について、一人一人の状態に合わせた適切なケアを行うことが重要である、また、これらのケアを行う場合には、一人一人を見守り、接し、触れ合う機会を増やし、伝えたくてもうまく伝えられない気持ちやサインを受け止め、不安や不快、孤独を少しでも緩和していくことが求められる。また、生活リズムを整えることに加えて、健康状態を整えることも重要である、医療専門職と連携しながらアセスメントを行い、本人に応じた最適なケアを行っていく。
  5. 身体拘束廃止・防止をきっかけに「より良いケア」の実現を目指す
  6. このように身体拘束の廃止・防止を実現していく取り組みは、病院におけるケアの質の向上や生活環境の改善のきっかけとなりうる。「身体的拘束廃止・防止」を最終ゴールとせず、身体拘束を廃止していく過程で提起されたさまざまな課題を真摯に受け止め、よりよいケアの実現に取り組んでいく。

身体拘束しないための工夫と取り組み

  1. 観察の強化
    1. スタッフステーション近くの部屋へ移動
    2. ベッドセンサー、アラーム機器の活用
    3. 車いすに移乗して目の届く範囲で観察
    4. 患者のそばを離れる際には、看護師は互いに声をかけ、注意し合う。
  2. 病室環境の工夫
    1. 転落の危険性がある場合、ベッドの高さは低く或いは床ベッドにする。
    2. 隙間をクッション材や毛布等で埋める。
    3. ベッド上及び周囲の整理整頓を行い、不必要なものを置かない。
  3. 静脈ルート、ドレーン、カテーテル類の固定方法の考慮
    1. チューブ類は目や手の届かない位置に固定する。
    2. 輸液ポンプ等は患者に見えないようにする。
    3. 点滴は刺入部位の選択をする。
    4. 静脈ルートやドレーン等は出来るだけ早期の抜去を検討する。
    5. 早期の膀胱留置カテーテルの抜去に努める。
  4. 医師、看護師は家族と協議し、ADL拡大と気分転換を図る。
  5. 徘徊する患者に付き添い、必要に応じ、床にマットレス等を敷き、転落時の事故防止に努める。
  6. 患者の精神的安定を図るために、家族への協力を依頼する。
  7. 向精神薬等使用上のルールについて
  8. 薬剤による行動の制限は身体拘束には該当しないが、患者・家族等に説明を行い、同意を得て使用する。

身体拘束の緊急やむを得ない場合の3つの条件

  1. 切迫性
    • 本人または他の患者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。切迫性の判断を行う場合には、身体拘束を行うことにより本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要となる程度まで本人等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が高い事を、確認する必要がある。
    • この判断を行う前に確認すべきポイント
      • 身体拘束をしない場合、本人等の生命または身体がどのような危険にさらされるのか
      • それはどのような情報から確認できるのか
  2. 非代替性
    • 非代替性の判断を行う場合には、いかなる時でも、先ずは身体拘束を行わないすべての方法の可能性を検討し、本人等の生命又は身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを、組織で確認する必要がある
    • また、拘束の方法自体も、本人の状態像に応じて最も制限の少ない方法により行われなければならない
    • 身体的拘束を行わない方法について事前に検討する。代替方法を考えるスキルを高め合うことが重要となる。
    • この判断を行う前に確認すべきポイント
      • 身体拘束を行わない方法の可能性を洗い出すことが出来ているか
      • 代替方法の洗い出しに当たり、複数の職員や多職種での検討を行ったか
      • 代替方法を実際にぉこなってみた結果について十分に検討できているか
  3. 一時性
    • 一時性の判断を行う場合には、本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要がある
    • この判断を行う前に確認すべきポイント
        • 本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定したか。それは何月何日の何時から何月何日の何時までなのか。また、一日のうちの何時から何時までなのか。
        • その判断にあたり、本人・家族・本人に関わっている関係者で検討したか
      ※緊急かつやむを得ない場合に施行するが、患者又は家族の同意及び医師の指示があること。

緊急かつやむを得ない場合の身体拘束の具体例

    身体拘束は行わないことが原則であるが、入院患者や当院利用者の生命又は身体を保護するためなど、緊急やむを得ない理由などにより身体拘束を行う場合がある。
  • 生命維持、回復のためのチューブ類を抜去されることで患者の状態悪化に繋がる場合
  • 術直後に安静や安全が守れない場合
  • 痙攣時において身体保護が必要な場合
  • 認知症や見当識障害、意識障害があり、不穏行動や危険行動が予測される場合
  • 小児例、理解力の低下があり治療上必用な体位(安静)が保てない場合
  • 病的反射や不随意運動により、自分の意思で体動を抑えられない場合
  • 創部汚染、治療に協力が得られない場合
  • その他、疾患の増悪、患者生命の危険がある場合

身体拘束最小化のための体制

    以下の取り組みを継続的に実施し、身体拘束等の適正化のための体制を維持・強化する。
  1. 身体拘束最小化委員会の設置及び開催
  2. 当院の身体拘束等の適正化を目指すための取り組み等の確認、改善を検討する。特に緊急やむを得ない理由から身体拘束など実施した、又はしている場合の身体拘束の実施状況や適性についての検討を行う。身体拘束最小化委員会は、2か月ごとに開催する。
  3. 委員会の構成員とその役割
    1. 委員長:中村伸一郎、副委員長:杉岡佳織
    2. 役割:委員会の責任者及び諸課題の総括責任
    3. 委員:医療安全管理室1名、師長4名(病棟)、リハビリ科1名、薬剤部1名、放射線科1名、看護副部長1名
      • 役割
      • 身体拘束等適正化における措置の適切な実施
      • 身体拘束等適正化に関する職員教育
      • 家族との連携調整
      • 院内のハード・ソフト面の充実等
    4. 記録及び周知
    5. 委員会での検討内容・結果については議事録を作成し、議事録をもって職員への周知を行う。

身体拘束最小化のための職員研修に関する基本方針

  1. 全職員を対象とした身体拘束に関する教育研修を年1回以上開催する。
  2. 研修にあたっては参加者・実施日・実施場所・内容等を記載した記録を作成する。

医師による評価と指示

  1. 拘束対象患者(上記)について医師と看護師が話し合い、患者の状況を評価した上で決定する。
  2. 医師は患者・家族に身体拘束について説明し、その内容をカルテに記載する。
  3. 医師は指示簿に身体拘束の指示を記載する。
  4. 主治医不在時は代理医師、夜間・休日は当直医師が指示する。

患者・家族へのインフォームド・コンセプト

  1. 身体拘束の適応を判断された場合は、医師はその必要性・方法・予測期間、身体拘束をしなかった場合のリスク等を説明し、同意(※)を得るとともに、その旨をカルテに記載する。
    (※)「身体拘束に関するご説明と承認書」を使用する。
  2. 夜間など緊急で拘束を行った場合は、医師は翌朝、身体拘束の必要性、方法の妥当性、具体的期間を家族に説明する。
  3. 同意を得られない場合は。危険を回避できないことがある旨を医師が説明し、カルテに記載する。
  4. 患者に家族がいない場合で、本人に同意を得られる状況でないときは、カルテにその旨を記載し、医師・看護師で協議の上、身体拘束の実施を検討する。

身体拘束時の看護

  1. 拘束方法
    1. 拘束部位に適した拘束用具(体幹抑制、四肢抑制、車いす安全帯、ミトン手袋等)を選択し、必要部位にしっかり装着する。
    2. 拘束用具装着に際しては、緊急かつ安全に実施するために2人以上の看護師が協力して行う。
    3. 安全帯は、関節可動性を残して固定、必要に応じてタオルなどで保護する。
  2. 観察について
    • 原則として、拘束直後に身体的に問題点がないかを確認し、その後は定期的に観察を行う。
    • 毎日拘束の必要性について常に観察・再検討し、要件に該当しなくなった場合は直ちに解除する。
    • ≪観察項目≫
      • 患者の精神状態(不安・ストレス等)
      • 体動状況
      • 拘束による二次的障害の有無(呼吸・循環障害、末梢の循環障害、神経障害関節拘縮等)
      • 拘束部位の皮膚の状態状態に応じてバイタルサイン測定
  3. 記録内容
    1. 拘束の目的、それに至るまでの患者の状況
    2. 患者及び家族への説明内容と同意の有無、説明した家族の続柄
    3. 拘束開始時間・拘束部位・拘束に使用した物品
    4. 観察記録・観察時間
    5. ※チェックリストを用いて2時間以上は時間をあけず、拘束を開放し観察する。
  4. 注意事項
    1. 医師の指示があることを確認する。
    2. 身体拘束による二次的障害に注意する。
    3. 患者の訴えに注意を払う。
    4. 誤嚥や窒息などの不慮の事態に備え、対策を考慮しておく。
    5. ナースコールを手元に設置する。
    6. チューブ類に手が届かないことを確認する。
    7. 拘束の部位や期間は最小限にとどめるよう、心身の観察とアセスメントを行う。
  5. その他
    1. 毎日1回は拘束解除に向けてのカンファレンスを関係部門(MSW、リハビリ、医師、看護師等)で行う
    2. 週に1回以上他部門を含めたカンファレンスを行う
    3. 必要に応じ精神科などの専門医に相談する。

身体拘束のフローチャート

患者に次のような状態・危険性があるとき身体拘束を検討する
  1. 生命維持、回復のためのチューブ類を抜去されることで状態悪化に繋がる場合
  2. 術直後に安静や安全が守れない場合
  3. 痙攣時において身体保護が必要な場合
  4. 認知症や意識障害、見当識障害があり、不穏行動や危険行為が予測される場合
  5. 小児や理解力の低下があり、治療上必要な体位(安静)が保てない場合
  6. 病的反射や不随意運動等により自分の意思で体動を抑えられない場合
  7. 自傷、他害の恐れが強い場合
  8. 創部汚損、治療に協力が得られない場合
  9. その他、疾患の増悪、患者生命の危険がある場合

身体拘束の手順

  1. 物品の確認
  2. 用具に破損がないか、使用前に必ず確認する。
  3. 拘束手技の実際
    1. ミトン型手袋
      1. 患者・家族に拘束の方法を説明し、同意を得る。
      2. 患者にミトンを装着する。
      3. ミトンのベルトの長さに注意し、ミトンをした手が顔やチューブ類に届かないようにする。
      4. 拘束部位と拘束状態、二次的障害の有無を観察して記録する。
    2. 車いす用安全帯
      1. 患者・家族に車いす用安全帯の使用方法を説明し、同意を得る。
      2. 車いすに安全帯を置き、股下の帯を座席と背もたれの下部に通す。
      3. 患者を車いすの中央に座らせ、腰周りの帯を背もたれの後方でジョイントし、帯の長さを調整する。
      4. 拘束部位と拘束状況、二次的障害の有無を観察し記録する。
    3. 四肢抑制、体幹抑制
      1. 患者・家族に四肢抑制、体幹抑制の使用方法を説明し、同意を得る。
      2. 四肢抑制、体幹抑制は、可動域に余裕を持たせ挿管チューブなどに届かないようにする。
      3. 拘束部位と拘束状況、二次的障害の有無を観察し記録する。
    4. 備考
      1. 身体拘束中は頻回に訪室し、2時間ごとに体位変換する。車いすでは臀部の除圧を図る。
      2. 拘束部位の圧迫や痙攣を生じる場合は、ガーゼやタオルで保護する。

    身体拘束解除の基準

    1. 身体拘束の適用要件を満たさなくなった場合には、速やかに解除する。
      解除する場合は、どのように判断したかその根拠を記録に残し、指示簿に解除指示を記載し、医師・看護師がサインする。
    2. 二次的な障害が発生した場合は、速やかに医師に報告する。医師は身体拘束の適応について再評価し、指示する。

    小児の体拘束について

    小児は拘束されること無く、1人の人間として安全に治療や看護を受ける権利を持っている。しかし、言葉が理解できない年齢では、点滴ライン、経管栄養チューブや気管カニューレなど、生命を維持するために必要なものを抜いてしまうことがある。 このような場合は、小児の治療の継続と安全確保のため、必要最小限の範囲で拘束を行わざるを得ない。その際、小児の人権と安全を守るために、以下の基準に従うものとする。
    1. 身体拘束の適応要件
    2. 緊急やむを得ない場合に施行するが、以下の全ての条件を充たす必要がある。
      1. 患者又は保護者の同意及び医師の指示があること。
      2. 他に代替手段がないとき。
      3. 生命に関わるとき。
      4. 具体的には、以下のような場合に適応となる。
        • 治療を進めるため、又は生命を維持するために必要な点滴チューブ等を抜いてしまう危険性がある場合
        • 手足を動かす、起き上がってしまうなど、治療上必要な安静は運動制限が守られない場合等
          (『2身体拘束の適応用件』を参照)
    3. 実施に当たって
      1. 入院時、拘束について説明し、同意を得ておく。緊急時には医師の判断で拘束することについても、保護者の了承を得ておく。
      2. 実施に当たっては、医師、看護師がアセスメントを行い決定する。
      3. 実施前に小児の理解度に合わせて最大限の説明を行うとともに、保護者への説明を行う。
      4. 夜間など、緊急に実施した場合は翌日の早い時間に必要性、方法の妥当性、予定期間などを保護者に説明する。
      5. 家族が帰宅するときは、安全確認のために看護師に声をかけるよう説明する。
      6. 拘束を実施したこと、説明の内容についてカルテに記載する。